十八世紀の恐怖

言説・表象・実践

ジャック・ベールシュトルド/ミシェル・ポレ 編

飯野和夫/田所光男/中島ひかる 訳

法政大学出版局

2003年12月刊 四六版 446頁 本体5000円
ISBN4-588-00782-3





理性が世界をくまなく照らし出すと信じた啓蒙期の知的文化の中心になおとどまっている
恐怖の諸相を、聖書画像・刑罰制度・独裁政治・人食いネズミ・性的不能・小説のヒロイ
ン・ベドウィン神話・アジアコレラなどに読み取り、光の時代の深 層に潜む人間の暗黒を
問う。


        目次

緒論  ジャック・ベールシュトルド(パリ第三大学) ミシェル・ポレ(ジュネーヴ大学)

      恐怖――実践と反省

恐怖から不安へ――幼い子供用に作られた最初の聖書画像集における巧みな演出(一七
七四―一七七九)  マック ス・アンガマール(ジュネーヴ宗教改革史学 院)

「懲罰の恐怖で犯罪をたじろがせよ」――十八世紀の刑法学者たちにおける恐怖による教
育  ミシェル・ポレ(ジュネーヴ大学)

恐怖政治の恐怖  ブロニスラウ・バチコ(ジュネーヴ大学名誉教授) (聞き手 ミシェル・
ポレ)

恐怖に打ち克つ  ジャン・スタロビンスキー(ジュネーヴ大学名誉教授)

      恐怖の表象

シラノ・ド・ベルジュラックからカサノヴァまでの投獄の話におけるネズミへの恐怖   ジャッ
ク・ベールシュトルド(パリ第三大学)

十八世紀における不能の恐怖と叙述装置  イヴ・シトン(ピッツバーグ大学)

身持ちの堅い貞淑な女性――十八世紀小説の何人かのヒロインにみる恐怖と欲望  ク
レール・ジャキエ(ローザンヌ大学)

迷宮の中で――ディドロのクラヴサン  ギ・ポワトリ(ジュネーヴ大学)

レヴェロニ・サン=シール、カゾット、ポトキ――三つの小説の恐怖  フランソワ・ロセ(ロー
ザンヌ大学)

      空間の中の恐怖

洞窟への下降と死の恐怖の象徴的体験――十八世紀のいくつかの旅行記について  
ウーテ・ハイドマン(ローザンヌ大学)

克服された恐怖――十八世紀のフランス人旅行者におけるベドウィン神話の出現  サル
ガ・ムサ(フランス国立科学研究センター)

旧体制との連続あるいは断絶? 山間の大恐怖――スイスとコレラ(一八三一―一八三
二)  ジョエル・ドゥルー(ジュネーヴ大学)

      現実態の恐怖 批評=フィクション

人間の恐怖  アラン・グロリシャール(ジュネーヴ大学)


*          *          *

内容紹介

本書は十八世紀の恐怖の問題を論じ尽くそうなどとは意図していないが、専門領域に閉じ
こもりすぎている文学研究者と歴史家の間に必要とされる対話にささや かながら寄与した
いと念じている。アプローチの多様性を利用しつつ啓蒙の世紀の恐怖について考察するこ
とは、極端な専門化の恐怖を克服しようと試みること なのである。(「緒論」より)

本書はジュネーヴ大学の「十八世紀研究グループ」の活動の中から生まれたものである。
J=J・ルソーは周知のようにジュネーヴの出身であり、晩年のヴォル テールも、まずジュ
ネーヴ市内で、次いでジュネーヴ郊外のフランス領フェルネーで過ごすなど、この都市はフ
ランス十八世紀と縁が深い。そうした事情も当然 作用しているだろうが、ジュネーヴ大学
文学部はフランス十八世紀研究の一つの拠点となっており、とりわけ、著名なルソー研究
家であるスタロビンスキー、 ポーランド出身のフランス革命研究家バチコの両大家に代表
されてきた。このジュネーヴ大学が、気鋭の若手・中堅研究者をも多く擁して、活発な研究
活動を展 開していることを証明しているのが本論文集であると言える。(「訳者あとがき」よ
り)

本書は La Peur au XVIIIe siecle : discours, representations, pratiques, Etudes reunies 
et presentees par Jacques Berchtold et Michel Porret, Geneve, Droz, 1994 の全訳であ
る。

*          *          *

編者紹介

ジャック・ベールシュトルド (Jacques Berchtold)
1959年生まれ.ジュネーヴ大学を経て、パリ第三大学教授.フランス文学専攻.著書:『ネ
ズミとネズミ取り 聖アウグスティヌスからジャン・ラシーヌま での隠喩の場における歪像』 
Des rats et des ratieres : anamorphoses d'un champ metaphorique de saint Augustin a
Jean Racine, Geneve, Droz, 1992, 『小説における牢獄 十七−十八世紀』 Les prisons
du roman (XVIIe-XVIIIe siecles), Geneve, Droz, 2000, 他.

ミシェル・ポレ (Michel Porret)
1955年生まれ.ジュネーヴ大学教授.歴史学専攻.著書:『犯罪とその情状 啓蒙の世紀
における自由裁量の精神 ジュネーヴの主席検事たちの論告文によ る』 Le crime et ses
circonstances : de l'esprit de l'arbitraire au siecle des Lumieres selon les requisitoires
des procureurs generaux de Geneve, Geneve, Droz, 1995, 『ベッカリーア 罰する権利』 
Beccaria, le droit de punir, Paris, Michalon, 2003, 他.